時々、質問をいただいたり、講習会などでも「ガイドさん」と呼ばれることもありますので、登山道場の「スキルアッププログラム」と登山ガイドの違いについて纏めてみようと思います。
結論!私は「登山ガイド」ではありません。
はじめから結論を言ってしまいましたが…
でも、これを前提に、これから真相についてお話しようと思います。
私は山岳ガイドではなく、「登山の指導者」です。
山岳総合センターなどの講習会などでは「先生」と呼ばれることが多いのですが、その呼ばれ方があまり好きではなく、なんかこっぱずかしいというか、柄に合っていないというか…
じゃ、なんて呼べばいいの?なんていう声が聞こえてきそうですが、私の開催する「スキルアッププログラム」に参加されている方々からは「ミツさん」と呼ばれています。
呼び方に困ったら、「ミツさん」で!(ちょっと寒い冬だと口が回らなくなりそうな感じですけど…)
話は脱線しましたが、私は登山の指導者です。(2回目 笑)
指導者がどうあるべきか云々の難しい話はさておき、「登山ガイド」との違いについてお話していきましょう。
そもそも、登山ガイドとは?
登山ガイド・山岳ガイドとは、安全の配慮を行いながら山々の自然や歴史の解説をし、山頂まで導いてくれる案内人のことです。国内の山を案内するガイドは、登山ガイド、山岳ガイド、自然ガイドなど、ガイドできる季節、範囲などで職能が分かれています。
登山ガイド
登山ガイドは、国内の無雪期の山を山頂まで案内します。案内できるルートは危険な箇所の少ない一般登山道に限れらています。一般登山道とは登山地図の実線で示された登山道で、登山地図に示された難路は除き、沢登りはできません。
山岳ガイド
山岳ガイドは、一年を通じて国内の登山ルートのガイド行為を行うことができます。ただし、岩壁登攀(ロッククライミングなどの岩登り)や積雪期に一般登山道以外のルートを案内することはできません。
自然ガイド
自然ガイドは、国内で無雪期に人間社会と隣接する里地・里山・山地・高原において自然、歴史、民俗等を解説します。登山道を歩き山頂に導く案内はできません。
こちらはツアー会社の名鉄観光のサイトから引用させていただきました。
https://guide.mwt.co.jp/mountain/basic/safety/guide/
ポイントとしては、
「安全の配慮を行いながら山々の自然や歴史を解説し、山頂まで導いてくれる案内人」ということです。
登山ガイドの使命→ 登山者を、安全に山頂まで導く(そして、安全に下山させる。)
登山者の求める結果→ 安全に登山を遂行し、(目的の)山頂を踏み、無事に帰ってくる
こういうことになります。
登山ガイドの中でも講習会を行ったりしている方も沢山いらっしゃいますが、講習会の最終的な目的はあくまでも、「登山者を、安全に山頂まで導く」ための技術を参加者に身に付けてもらうということです。(そうではない方もいらっしゃるかもしれませんけどね・・・)
それでは登山道場における「スキルアッププログラム」の目的とはなんでしょう?
登山道場の「スキルアップルログラム」の目的とは??
「スキルアップルログラム」という名前で何となく勘のいい方はお気づきかもしれませんが、私たちの目的は、登山者の「スキルアップ」、もっと言ってしまえば登山に関する知識や、技術を向上して、「自らが、今より高いレベルの山の計画を立て、その計画を安全かつ、確実に遂行する力をつけてもらう。」ということです。
もう少し大きなビジョンを話してしまうと、「自身のレベルに合わない(背伸びをした)登山活動の撲滅」を念頭に活動しています。
これを実現しようとしたときに、必ずしも登山道場を使わなくてもいいですし、山岳会などに入られてもいいですし、方々で行われている講習会に参加してもいいと思います。
現在の情報化社会では沢山の情報がいとも簡単に手に入り、某登山系の雑誌ではネタ切れなのか売り上げの為か分かりませんが、難易度の高い、憧れのルートの情報をあたかも一般道であるかのような形で情報が掲載されています。
例を挙げると、
・奥穂高~西穂高の縦走
・槍ヶ岳 北鎌尾根
などです。確かにこれらのルートはロープなどが無くても行けてしまう場所ですし、ロケーションも最高。ネームバリューも高い。実力に伴っているか否かは別としても、ここを歩いて無事に生還した方であれば、自慢したい気持ちもすごく分かります。
この情報を見て、「難しそうだな…」、「私には無理だなぁ…」って思う人は当然いかないと思いますけど、その中の一定数は、いろいろ経験を積んでいくうちに「自分でもいけるかも?」って思ってしまう人もいるはずです。そして結果的に多くの場合は、何事もなく「たまたま」行けてしまった・・・というのが大半でしょう。そういう方が増殖して、今やこういった難ルートで遭難事故が多発しています。
しかし、私はそのような方が悪気があってそういうことをやっているのではなく、自分自身の実力をする術が無いというのが正しいと思っています。そのあたりの、意識というか、感覚を少しでも変えられればと思っています。
登山ガイドと「スキルアッププログラム」の比較
登山ガイド | 道場道場 「スキルアッププログラム」 | |
目的 | 連れて行ってもらう | 自分で行く力をつける |
付き合い方 | 行きたい山がある限りずっと | 一定のレベルになるまで |
メリット | 行きたい山に最短距離で行ける | 技術を身に付ければ自分でどこでも 行ける |
デメリット | 半永久的にガイドが必要 | 行きたい山に行けるようになるまで 少し時間がかかる |
こうやって見れば違いを分かっていただけるでしょうか。
どっちがいいとか、そういう話ではなく、あなたがどういう考え方をしているか…ということです。繰り返しになりますが、自分で力をつけようと思ったときにそれは登山道場でなくてもいいのです。
その目的を果たす為なら、山岳会でも実現ができるはずです。山岳会へ入会を考えている方は、ぜひこちらもお読みください。
関連記事:山岳会ってどんなところ?入会するメリットとデメリット。
私は山岳会にも所属しておりますが、勧誘は一切しておりませんので!笑
次に、方々でやってる講習会への参加でも実現が可能かと言われると…ちょっと難しいかもしれませんが、不可能ではない…と言っておきましょう。
講習会が悪いというわけではないのですが、型にはめられた基礎や技術を学んでも、実践でどうやって使っていいかが分からないと思います。これは実践で直面しないと分からないので説明がしにくいのですけど、実践ではいろいろ考えてありとあらゆるケースを想定しないと、それに対しての対策もできないですからね!
登山道場 スキルアッププログラムでの流れ
2. 現状のレベル、経験の把握(ヒアリングの結果、テスト山行の場所を話し合って決める)
3. プランニング(現状の優位点、弱点の認識をした結果を踏まえて)
4. 実践・講習の繰り返し
5. 目標達成
スキルアッププログラムの事例
40代前半 女性 Oさん(長野市在住)
・これまでの最難関:奥穂高~北穂高縦走
・ロープワーク経験なし
・山岳会に入会したものの、なかなかタイミングが合わず教えてもらえるような山には行けず(退会済)
体力:テント泊装備で1日8時間程度の行程はこなせる
歩くスピード:並み‥
日帰り装備でCT × 1.0+α
目標
憧れの「剱岳 源次郎尾根」から登頂したい
こんな状況からのスタートでした。
まずは、試しに日帰りで前穂高岳までテスト山行で行きました。源次郎尾根は岩稜歩きと、懸垂下降、そして体力が核心ということでいくつか候補を上げた中で、Oさんが前穂高岳を選択
私の印象は、
・スピードに難あり(心肺機能が弱い?)
・体力自身は並み以上、しぶとくてペースは上がらないが落ちることもない
・岩稜歩きに小慣れた感はあるが、下りがすこぶる下手くそ(安定しない・遅い)
弱点は…
心肺機能もそうですが、一番は山の歩き方ができていなかった。その為、下りもどこを踏んでいいのか分かっておらず、もたつく…ロープワークはやればできるようになるのでまずは歩き方の矯正を焼岳で行いました。行程の長い山ではないので、ゆっくり山の正しい歩き方に注意しながら、緩斜面、急斜面、岩場などを終始注意しながら歩きました。
とても、1日で習得には至りませんでしたが、「出来ている、出来ていない」が自分でわかるところまでになりました。ここまでくれば、自分で練習ができるようになるので歩き方に関しては修了です。(とても真面目な方で、自分で山に行く時も注意しながら登っており、会うたびに成長が感じられました。)
次は、ロープワークです。
まずは、長野県の大町市にある人工岩場でロープワークの基礎を学びます。ロープワークに使うギアの説明から、基礎的なロープの結び方などを半日行い、午後からは、懸垂下降の練習です。20回ほどはやったのでしょうか…初めての懸垂下降はとても楽しかったようでひたすら懸垂してて…それに付き合っていた私の方が疲れてしまったくらいです。しかし、その甲斐あって1日でとてもスムーズに降りられるようになりました。
そして、冬を挟んだ(冬はスキーが好きな方でバックカントリーデビューと、何本か一緒に…)ということもありますが、少し時間が空いたので、再度、長野市の「物見岩」で懸垂下降の最終確認を行い私から「Goサイン」を出しました。
※実際には私は同行しなかったのですが、ソロで八ヶ岳の「赤岳、横岳、硫黄岳の周回」を既定の時間内にクリアし体力的にも問題ないと判断しました。
いざ、本番!源次郎尾根へ・・・
行程としては、2日目に慌てないように2泊3日の行程で計画。登山計画に関しても、登山計画の基本を教えた(オンライン講習)上で、Oさん主体で計画を一緒に立てました。
1日目 剱沢小屋(剱沢キャンプ場)まで。(テント泊)
2日目 早朝出発、源次郎尾根登攀、剱沢キャンプ場(テント撤収)、雷鳥沢キャンプ場まで
3日目 朝イチの便で下山
こんなスケジュールです。
実践の行程での岩稜歩き、懸垂下降は特に、問題なかったのですが、実際に苦戦したのは、
・ルートファインディング
・懸垂下降の支点の取り方
この2点です。
支点の作り方などについては教えていましたが、実際に現場に出るとどうしたらいいのか分からなくなってしまうものです。源次郎尾根の懸垂支点は捨て縄がありすぎてどこにロープをかけていいか分からなかったようです。その異様な状況(山ではよくある事なんですけどね 笑)を見たOさんは無言で僕のじっと見つめて心の中で「どうすんだよぉ!!これ」と言わんばかりの顔でした。
その他、私は想定していましたが、ルートファインディングで戸惑う場面が複数回…1回2回というレベルでなく恐らく数十回!尾根上を進むだけなのですが、大きな尾根なのでどっちに進んでいいのか分からなくなってしまうのです。
Oさんからしたら、想定しない場所で苦戦したのが悔しかったみたい。
でも実際に発生する事故で以外にも多いのは、ルートファインディングをミスして進退窮まり、無理して突破→滑落。というケースです。(講習などでは小手先の技術は教えてくれてもこのようなことは教えてくれません。)
自信満々で挑んだ憧れの「源次郎尾根」でしたが、登り切った嬉しさ半分、正解が分からなくなり、私に答えを求めてしまった惜しさ半分でとても複雑な感じでした。
その後も何本か(他の)バリエーションルートを一緒に経験し、私抜きで、知人と「源次郎尾根」のリベンジを果たしていました。(数ヶ月後に…)
このように、講習でやっていても実践では別のトラブルや、問題が次々に発生してきます。だからこそ、私は実践を交えた講習がとても重要だということを感じています。
ちなみに、Oさんが源次郎尾根に挑戦するまでには、
1. 前穂高岳(テスト登山)
2. 焼岳登山
3. 人工岩場での講習
4. 物見岩での(最終確認)
5. 実践(源次郎尾根)
このペースが速いか遅いかは別として、バリエーションルートの「バ」の字も知らなかったOさんが一度(私と)経験したからといえど、自分自身の力で「源次郎尾根」に行けるまで成長したことは紛れもない事実です。
私と山に行かずしても、頻繁に連絡を取り合い、課題の克服に向けて個人的な訓練(コソ練)は頻繁に行っていたようですけどね…
これはほんの一例ですが、このような形で個々の目標に合ったプランニングを行いスキルアップのお手伝いをしています。是非、ご興味ある方は参加するしないは別として、お気軽にご相談ください。